最近よく話題になっている長時間労働に伴う過労死やメンタルヘルスの問題、サービス残業や未払賃金の問題は、労務管理に対する会社側の誤解や考えの甘さが原因となっているといっていいでしょう。
さらに、このような問題が発生した場合、会社側は管理責任を問われ、損害賠償請求という金銭的リスクや労使紛争から労使の信頼関係が失われ事業運営に支障をきたす等の大きな企業リスクを背負い込む場合もあります。
当事務所では、お客様に対して労務管理の重要性を説明しリスク予防対策を一緒に考えます。
適切な労務管理とは、社員を採用してから退職までの各ステージで、社員を効率よく管理し労使間でトラブルを発生させない管理方法だと考えます。そのためには、労務管理が就業規則とリンクしていることが前提となります。
社員の採用から退職までの各ステージに対しては労働基準法等の様々な法律で、会社が守らなければならないことを定めています。つまり、法律によって労働者は保護されています。
適切な労務管理にあたっては、最初にこれらの決まりを踏まえ、その上で会社としてどのように社員を管理していくかを考える必要があります。
以下に法律で会社が守らなければならないと定めている内容の一部を載せました。今までの認識に誤解がないかチェックする意味でも確認してみましょう。
労働基準法では、会社が社員の労働時間を適切に管理する責任があると定めています。そして、労働基準監督署は会社が労働時間を適切に管理しているか監督指導しています。以下に厚生労働省から示されている労働時間を適切に管理するにあたって会社が行うべき措置を載せてみました。
法定労働時間(労働基準法で定められた労働者を働かせてることができる上限時間。1週間の法定労働時間は休憩時間を除き40時間、1日の法定労働時間は休憩時間を除き8時間)を超えて社員を働かせることは違法となっています。
しかし、皆様も聞かれたことがあるかと思いますが、三六協定(サブロク協定)を会社と社員の間で締結して労働基準監督署に届出ることで、さきほどの法定労働時間を超えて社員を働かせること(「時間外労働」)ができるようになります。
現実的に、時間外労働を行っていない会社はほとんどないと思います。
それは、会社が三六協定を社員と結んで労働基準監督署に届出ているからです。
ここで注意したいことは、三六協定を届出れば何時間でも時間外労働を行えるかというとそういう訳ではありません。
限度となる時間(時間外労働の基準)が決められています。
しかし、この限度となる時間も「特別条項付三六協定」という三六協定を締結し届け出ることで、条件付きですが、限度となる時間を超えることが認められています。
「三六協定」労働基準監督署に提出することにより、本来違法となる法定労働時間を超える労働を違法としない効果をもつ協定です。このような効果のことを「罰則を免除する」という意味で「免罰効果」と言います。
「三六協定」締結・届出だけでは「免罰効果」があるだけで、会社が社員に時間外労働させるための根拠とはならないのです。会社が社員に時間外労働を行わせるためには、社員と時間外労働をさせる旨の約束が必要になります。この約束となるのが就業規則です。就業規則に時間外労働を行う旨を定めることが必要となります。
そして、時間外労働には法律で定められた割増賃金を支払う必要があります。
つまり、時間外労働を社員にさせるためには
「三六協定」+「就業規則」+「割増賃金」の3つが必要となります。
先程も説明しましたが、「三六協定」を締結し労働基準監督署に届出れば何時間でも時間外労働を社員にさせられることができるわけではありません。
時間外労働の限度となる時間も法律で下表のとおり定められています。
この限度時間を超えて時間外労働をさせることはできないのです。
期間 | 1ヵ月 | 1年 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
限度時間 | 45時間 | 360時間 |
※ 1年単位の変形労働時間制(期間3ヶ月超)が適用される場合は除きます。
割増賃金には、時間外労働、休日労働、深夜労働に係る割増賃金があり、それぞれ法定の割増率以上の割増賃金を支払わなければなりません。
割増賃金については、近年特に労使間トラブルが多発していることから十分な理解が必要となります。
割増率は時間外が25%、休日が35%、深夜が25%となっています。
令和5年4月からは、中小企業を含む全企業において、時間外労働が1ヵ月60時間を超える部分についての時間外割増率が50%に引き上げられました。
休日労働とは、法定休日に労働した場合のことです。法定休日とは「1週間に1日の休日」のことです。
週休2日制をとっている会社の場合、一般的に週に1日の休日が確保されていれば、その日が法定休日となり、法定休日以外の休日の労働については「休日労働」とはなりません。
ただし、法定休日以外の休日の労働により、1週間の法定労働時間を超える場合は「時間外労働」となり、割増賃金が必要となります。
「管理職には残業手当を支払わなくてよい」と考えていないでしょうか。ご相談を受けるなかでそのような意見をよく耳にします。
結論として、すべての管理職にそのような考え方が当てはまる訳ではありません。この誤解の原因は労働基準法第41条の理解の仕方にあります。
労働基準法第41条は、「管理監督者等(注意:管理職ではありません)には同法の労働時間、休憩、休日に関する規定は適用しない」と規定しています。
ここから管理監督者(管理職ではありません)には時間外および休日の労働に対して割増賃金を支払う義務がないというふうに理解されているのです。(注意:管理監督者であっても深夜労働の割増賃金の支払は必要です。)
しかし、労働基準法第41条の「管理監督者」は、役職名が課長で「うちの会社では管理職だから」というだけで決めるのではなく、実態で判断されます。しかもその判断となる基準は非常に厳しいため、一般的に会社の管理職が労働基準法第41条の「管理監督者」に該当しない場合が十分考えられます。
もし、管理職なので残業手当を支払っていなかった場合、労働基準法第41条の「管理監督者」に該当しないこととなれば、残業代の未払いの問題が発生してしまいます。
よく耳にする「名ばかり管理職」の問題はこのような誤解があるからです。
以下に厚生労働省から示された管理監督者の判断基準を載せてみました
等の観点から実態で判断されます。
労働基準法上の「管理監督者」とは、その判断基準が厳しく、安易に管理職だからといって残業手当の対象から外すことは、かなりリスクが高い行為だといえます。
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